2018年5月31日木曜日

【読書】不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか


「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか / 鴻上 尚史」
を読みました。

この本は、色々と私に考えるきっかけをくれた良書です。
リアリズムの大切さと、リーダーのあるべき姿。
一読の価値ありです。



当時21歳の佐々木友次は、
9回特攻に出撃して、9回とも生きて帰ってきたという。

まず、特攻に生還があったという事実こと、
しかも、9回も生還したということに驚きました。

父、藤吉の
「人間は、容易なことで死ぬもんじゃないぞ」
との言葉を胸に。


私の知っている浅い知識の特攻とは、
やはり美化された特攻なのでしょう。



自ら志願して、お国のため、天皇のため、
笑顔で儚く消えていったというな認識でした。

それはまるで、現代の我々とは異なった感情を持った
何かの物語の中の登場人物のような、
別人格のように思えていたのかもしれません。


この本の前半の戦時中の描写には、
色々とこみ上げるものがありました。

一人の人間が生死を掛けるということに関しては、
純粋に私の胸に突き刺さるものがあります。
自分の現在の暮らしと比べ
「このままでいいのか」という疑問も
何度も私自身浮かんできます。
襟を正さなければ、という思いになります。


当時、生死の極限の状態にあって他の隊員たちの
本音である、妻(KAと伏せて)のため、と言った方がいたり、
他にも、
アナポリ(兵学校出身の海軍エリートを揶揄する言葉)、
出てきやがれ、お前達はこの戦争で一体何をしているんだ。
とビールビンを士官宿舎に向かって投げて出撃した方がいたなど
人間くさい部分の描写があり、そういったこともあったと知れたことに
同じ人間であるという確認ができたようで、
何とも言えない安堵感もありました。


しかし、これらも消され美化され私の浅い知識になっていたのかと
思うと怖いものがありました。

中でも、戦後の混乱期に遺書の回収をした人物がいたということにも
驚きを隠せませんでした。
やはり、軍も特攻は汚点であるとの認識を持っていたのでしょう。


司馬遼太郎は、
昭和の戦争を考えるとき、「リアリズムの喪失」と言いました。


確かに、軍の中でも
福島大尉は「卵をコンクリートにたたきつけるようなもの」
というように的確に表現をしました。
これが、リアリズムだと思うのです。


精神論が横行すると、リアリズムの欠如を招きます。
リーダーである者は、リアリズムを欠いてはならないのです。


佐々木友次の上長である冨永司令という、
無能なリーダーについても描写されていて
最後は、台湾に逃亡するのですが、
無能なリーダーが、現場を混乱に陥れるのだと
腹立たしくなりました。


その正反対の、リアリズムを持った
徹底して特攻を拒否、部下を誰も特攻に出さなかった
美濃部正少佐というリーダーもいたということに
胸が熱くなりました。
上長は、こうあるべきだと刺激を受けました。




戦後、友次が札幌駅に戻った時の出来事の描写にも
感情を揺さぶられました。

札幌駅の椅子の板も壁の板も剥がされ、壊されていた。
それが焚き火に燃やされていると気づいた時、
戦争に負けるとはどういうことか、
人々の心がどれほど荒むかをキリキリ感じ。

目の前では日本の女性が、敵語と言われた英語をしゃべり、
アメリカ兵とふざけあっている様子を見た時。

「なんのための、体当たり攻撃だったのか」
と、友次が思うわけです。
なんだか、悔しいような虚しいような。
私も同じ思いを持ちました。



後半の筆者の、
水増しされていない、
特攻の成果、命中率の推測にも
色々思うところがありました。

確かに、真珠湾の特攻の際の
止まっている目標物に対する
高確率の命中率を引きづった数字や、
軽微な、相手の破損をどこまで戦果に入れるのか、
など、美化されたというか、
せざるを得なかった悲しい現実を突き付けられたようでした。



「命令した側」「命令された側」をごちゃ混ぜに考えてはいけない。
批判は、命令する側に向けられるべきなのに、
いつの間にか、命令された側の批判のように受け止められ
問題がおかしなことになる。

「人の頼みを断る時」に感じる苦悩の源泉という、
ムラ社会で暮らしてきた日本人のルーツ。

真夏の炎天下の高校野球出に見る
現在も繰り返される、特攻の構図。


リアリズムの大切さと、
リーダーのあるべき姿を
この書籍で考えさせられました。


病室でのインタビューでの
「心の支え」に対しての
「やっぱり先祖。ご先祖様ですよ。今もそう、
仏様。当時はやっぱり仏様が精神的に強いですよ」
という答えは本質をついていると思います。



「寿命は自分で決めるものじゃない。」
という言葉にも重みがあります。







なんしか、カッコいい大人になろう。


「いかに必要であろうと、いかに正当化できようとも、
戦争が犯罪だということを忘れてはいけない。」
(ヘミングウェイ)


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